穏やかな午後は、ほんの少し冷たい風が吹いている。
ベビーカーに悠を乗せた私は近所の公園まで散歩に出かけていた。柊夜さんが部屋の模様替えをするというので邪魔にならないよう、ヤシャネコとコマも連れて外出している。
先日、柊夜さんと一緒に妊娠検査薬の陽性反応を確認したため、産婦人科で診てもらったところ、やはり妊娠していた。
現在は妊娠十週である。
超音波で見る赤ちゃんの写真は頭が大きい二頭身体型で、きゅっと手足を曲げているポーズをしており、感動を覚えた。まだ性別はわからないけれど、すでに脳や心臓など内臓の形は完成しているらしい。
「悠に妹か弟ができるよ。どっちがいいかなぁ」
頰を緩ませつつ、歌うように問いかける。
ベビーカーにお座りした悠は兄妹が生まれることをまだわかっていないので、きょとんとしていた。
私が性別を決められるわけではないが、赤ちゃんが女の子か、それとも男の子かというのはやっぱり気になる。どちらであっても健康であればそれでいいのだけれど。
妊娠が発覚する前は、あれこれと思い悩み、検査薬を試そうかどうしようかためらっていたのに、いざ赤ちゃんができたと知ると嬉しくてたまらない。これからのことに思いを馳せ、浮かれてしまう毎日だ。
妊娠しているかどうかを知るのは勇気がいるが、生理が来ないのでもしかして……と思ったときには、すでに赤ちゃんの脳や脊髄などの神経細胞が形成されている時期になる。最終月経の始まりを妊娠ゼロ週とカウントするので、生理が終わり、性行為をして、次の月経が始まるはずの頃にはもう妊娠五週目なのだ。
受精卵が子宮内膜に着床すると、瞬く間に胎児は成長していく。
まだ膨らみのないお腹にそっと手を当てると、愛おしさが胸に広がる。
ふたりめのためか、つわりはほとんど起こっていないので体調は良好だ。もっとも、つわりは個人差が大きいらしい。悠を妊娠したときは、つわりで具合が悪くて起き上がれなかったほどだったな、と思いだす。
ベビーカーに寄り添ってのんびりと歩くヤシャネコは、軽やかな声をかけた。
「おいらがまた赤ちゃんを守るにゃん。悠とコマもいっしょに赤ちゃんを守ってくれるにゃんね~」
「あぶぅ」
悠はヤシャネコに答えるように喃語をしゃべる。ベビーカーのフードにとまっているコマも「ピ」と鳴いた。
妊娠したことで、私はまたあやかしの姿が見えるようになった。お腹の子の神気のおかげだ。ヤミガミやコマドリが見えていたのもおそらく、その頃から妊娠していたからと思われる。
ヤシャネコが見えなくなったときはとても哀しんだので、天ぷらパーティーで再会したあとは、ずっと撫で続けたものだ。
家族がたくさんいることの幸せを噛みしめていると、やがて公園へ辿り着く。
休日は小さな子を連れた家族がいることも多いのだが、風があるためか誰もいなかった。空を見上げると、曇ってきたので太陽は隠れている。
「少し遊んだら帰ろうね」
悠をベビーカーから降ろすと、小さな足で駆けるように歩きだす。
まだひとりで遊具を使える年齢ではないので、公園では私が抱っこしてすべり台から滑り降りるくらいだ。それでも家に閉じこもっているよりは気晴らしになるので、悠は笑顔で砂場の周囲を駆け巡っていた。
ヤシャネコが悠のあとを追いかけていたのに、逆に追い回されるように背後を取られている。
「ニャニャ! 悠、こっちだにゃん」
喉を鳴らすように笑い声をあげる悠とヤシャネコの追いかけっこを、微笑んで見守る。
コマはシーソーの端にとまっていた。コマもまだ小さいけれど、すっかりコマドリとして大人同然の毛色になり、羽を広げてかなり飛べるようになってきた。
「お腹の子が産まれたら、もっとにぎやかになりそうね」
そうつぶやいたとき、ふと足をとめた悠が木陰を指差す。
「にゃ」
ベビーカーに悠を乗せた私は近所の公園まで散歩に出かけていた。柊夜さんが部屋の模様替えをするというので邪魔にならないよう、ヤシャネコとコマも連れて外出している。
先日、柊夜さんと一緒に妊娠検査薬の陽性反応を確認したため、産婦人科で診てもらったところ、やはり妊娠していた。
現在は妊娠十週である。
超音波で見る赤ちゃんの写真は頭が大きい二頭身体型で、きゅっと手足を曲げているポーズをしており、感動を覚えた。まだ性別はわからないけれど、すでに脳や心臓など内臓の形は完成しているらしい。
「悠に妹か弟ができるよ。どっちがいいかなぁ」
頰を緩ませつつ、歌うように問いかける。
ベビーカーにお座りした悠は兄妹が生まれることをまだわかっていないので、きょとんとしていた。
私が性別を決められるわけではないが、赤ちゃんが女の子か、それとも男の子かというのはやっぱり気になる。どちらであっても健康であればそれでいいのだけれど。
妊娠が発覚する前は、あれこれと思い悩み、検査薬を試そうかどうしようかためらっていたのに、いざ赤ちゃんができたと知ると嬉しくてたまらない。これからのことに思いを馳せ、浮かれてしまう毎日だ。
妊娠しているかどうかを知るのは勇気がいるが、生理が来ないのでもしかして……と思ったときには、すでに赤ちゃんの脳や脊髄などの神経細胞が形成されている時期になる。最終月経の始まりを妊娠ゼロ週とカウントするので、生理が終わり、性行為をして、次の月経が始まるはずの頃にはもう妊娠五週目なのだ。
受精卵が子宮内膜に着床すると、瞬く間に胎児は成長していく。
まだ膨らみのないお腹にそっと手を当てると、愛おしさが胸に広がる。
ふたりめのためか、つわりはほとんど起こっていないので体調は良好だ。もっとも、つわりは個人差が大きいらしい。悠を妊娠したときは、つわりで具合が悪くて起き上がれなかったほどだったな、と思いだす。
ベビーカーに寄り添ってのんびりと歩くヤシャネコは、軽やかな声をかけた。
「おいらがまた赤ちゃんを守るにゃん。悠とコマもいっしょに赤ちゃんを守ってくれるにゃんね~」
「あぶぅ」
悠はヤシャネコに答えるように喃語をしゃべる。ベビーカーのフードにとまっているコマも「ピ」と鳴いた。
妊娠したことで、私はまたあやかしの姿が見えるようになった。お腹の子の神気のおかげだ。ヤミガミやコマドリが見えていたのもおそらく、その頃から妊娠していたからと思われる。
ヤシャネコが見えなくなったときはとても哀しんだので、天ぷらパーティーで再会したあとは、ずっと撫で続けたものだ。
家族がたくさんいることの幸せを噛みしめていると、やがて公園へ辿り着く。
休日は小さな子を連れた家族がいることも多いのだが、風があるためか誰もいなかった。空を見上げると、曇ってきたので太陽は隠れている。
「少し遊んだら帰ろうね」
悠をベビーカーから降ろすと、小さな足で駆けるように歩きだす。
まだひとりで遊具を使える年齢ではないので、公園では私が抱っこしてすべり台から滑り降りるくらいだ。それでも家に閉じこもっているよりは気晴らしになるので、悠は笑顔で砂場の周囲を駆け巡っていた。
ヤシャネコが悠のあとを追いかけていたのに、逆に追い回されるように背後を取られている。
「ニャニャ! 悠、こっちだにゃん」
喉を鳴らすように笑い声をあげる悠とヤシャネコの追いかけっこを、微笑んで見守る。
コマはシーソーの端にとまっていた。コマもまだ小さいけれど、すっかりコマドリとして大人同然の毛色になり、羽を広げてかなり飛べるようになってきた。
「お腹の子が産まれたら、もっとにぎやかになりそうね」
そうつぶやいたとき、ふと足をとめた悠が木陰を指差す。
「にゃ」