ようやく私が彼に声を掛けたのは、洗い物が終わって一段落した食後だった。
彼の横、ソファに腰を下ろし、問答無用でテレビのチャンネルを変える。
酷い、と思われるかもしれないけれど、彼は基本的にテレビを見ない人だ。今だってどうせ気まずくてテレビに集中しているふりをしていたんだろう。
ドキュメンタリーからバラエティー番組に切り替わった画面を眺めていると、隣から控えめな声が聞こえてくる。
「……怒ってないのか?」
「本当に怒ってたらご飯作りませんよ」
そうか、と小さく頷いた彼が少し不憫に思えてきた。
彼が静かなのは私としても苦手なのだな、と改めて実感してしまう。
「別にお菓子食べるの駄目とは言わないですよ。ちゃんと好き嫌いせずに食べて、健康的な生活を送っていれば」
「……努力する」
「はい。お願いします」
ひとまず解決、だろうか。
自分の言葉を思い返して、相手は小学生だったっけ、と内心苦笑する。
それから再び沈黙が落ち、今度は彼から口を開いた。
「この番組、好きなのか?」
唐突で、平凡な問いだった。
私は「まあ、好きですけど」と曖昧に意思表示して、更に聞いてみる。
「どうしてですか?」