「おーい、向こう行ったぞー!」
グラウンドには、声が響いた。
僕は、それをいつも聞いているだけだった。
それなのに、その輪の中に僕もいる。それが、とても不思議で違和感さえ感じている。
どうして藍原は、僕にパスを回したんだろう。
どうして小武は、僕の背中を叩いたんだろう。
団体戦であるサッカーは、嫌いだった。
みんなで一致団結して勝利を目指すなんて、僕には向いてなかった。
だから、身体を動かすスポーツだってできればサボりたかった。
今までは、影が薄いから存在に気づかれることなくて僕が、ピッチで立ち止まっていても手を抜いていても気づかれることはなかった。
けれど、今日は藍原が僕に気づいてパスを回した。
どうせ藍原の気まぐれだろう。そう思った。
僕をからかうための材料にでもしようとしているのかもしれない。
そんな卑屈なことばかり考えてしまう。
「よーし。向こう走れ走れ!」
僕のチームがまだボールを奪うと、ゴール向かって指をさす。
その瞬間、みんなが走り出しパスが回る。
僕も、それにつられるように見よう見まねで走った。
近くに誰もいないような場所で。僕に気づくな、と念じながら。
だって、僕はもう失敗したくなかった。失敗して、みんなに責められたくなかった。僕が何もしなければ、きっとうまくいくはずだから。