今日の体育は、男子はサッカーだった。

けれど、僕は団体スポーツが大の苦手だ。そもそも、運動が好きじゃない僕が、サッカーなんてできるはずがないんだ。

だから、わざわざボールを追いかけたりしない。

ただ、それらしく見えるように軽く走るだけ。

それ以上のことは何もしない。

名前のとおり影が薄い存在でいれば、僕にパスを回してくる人なんていない。


……はず、だったのに。


「おいっ、茅影行ったぞ!」


同じチームの藍原が、なぜか僕にパスを回した。


「えっ、ちょ……っ」


突然のことで戸惑った僕は、受け取ったボールをどうすればいいのか分からずに立ち止まっていると、


「おーい、こっちこっち!」


声が聞こえる方へ視線を向ければ、小武が僕に手をあげていた。

とにかく早くこのボールを誰かへ渡したかった僕は、無我夢中でボールを蹴る。

けれど、勢いが足りなかったそれは、小武の待つ場所まで届かなくて、割り込んで来た敵チームに奪われる。


「よし! 攻めろ攻めろ!」


踵を返して、猛スピードを上げる敵チーム。

……さいっあくだ。

僕は、呆然と立ち尽くす。


「茅影、止まってないで走れ!」


そんな僕の背中をポンッと叩いて、僕を追い抜いて行く小武に、なかば促されるように追いかけた。