「ほら、早く食べなきゃお昼終わっちゃうよ?」

「でも、また誰かに見られたら…」

「それは問題ないんじゃない?」


矢継ぎ早に現れた言葉に、え、と困惑した声をもらしていると。


「だってここからは向葵くんたちの教室から死角になってて見えないもん」


そう言って、校舎の方を指さすから、後ろへ顔を向けた。

そしたら確かに僕たちの教室ではなさそうだった。
この学校に通って二年目になるのに、そんなことにも気づかなかったなんて。


「ね、大丈夫でしょ? だから早くお昼食べたら?」


そう言われて、ポケットからスマホを取り出すと、確かに残された時間はわずかだった。

今から別の場所を探しても、落ち着いて食べる時間なんて確保できない。

どちらが正しい選択か、なんて考えなくても分かる。


だから僕は、渋々、彼女の隣に座って、袋の中からパンを取り出した。


「向葵くんはいつもパンなの?」

「普段は弁当だけど……」


今朝は、母さんが寝坊したからとかでリビングのテーブルに五〇〇円が置いてあった。


「三日月さん、お昼それだけ?」

「え? うん、そうだよー」


今、食べている小さなクリームパン一つしか買ってないみたいだった。


「いつもそれだけなの?」

「うん。私、元々少食だから」

「へぇ、そうなんだ」


女の子が食べる基準なんて聞いたこともなければ見たこともないから、三日月さんのそれが基準より上なのか下なのか分からない。