「それ、ほんとに?」

「ほ、ほんとだし…!」


なんて嘘だけれど。

この状況、そう言うことはできずに。


ふーん、と適当に相槌をすると、


「じゃあこれ返してあげる」


と、僕に缶ジュースを差し出した。


「…どうも」


って、べつにこれ元々僕のだし。

なにお礼なんか言っちゃったんだろう。


「それよりさ、名前なんて言うの?」

「なんで?」

「なんで、って知りたいから」


いや、全然意味分からないんだけど。

早く教室に帰りたいのに……。


「ねぇ、名前なんて言うの!」


再度大きな声で尋ねられて、これ以上無視をすればもっと大きな声で叫ぶかもしれないと不安になった僕は。


「……茅影 向葵(ちかげ こうき)」


仕方なく、自己紹介をすることにした。


自分の名前を紹介することが嫌いな僕。

どうせ、いつものように名前でからかわれるんだろう、と予想していた。


「へぇ、いい名前じゃん!」


それなのに彼女は、名前を褒めて笑った。


……なんだよ、それ。

なんで僕の名前なんかきみが褒めるんだよ。


「あっ、私の名前はね三日月ひまり」

「……知ってる」


ぶっきらぼうにそう答えると、そっか、と言って楽しそうに笑う。