僕は暗くて影の薄い、やつだった。
それで自分の小さな世界が守れるならそれでもいいと思った。
「じゃあ、なんで…」
「言われっぱなしじゃ悔しいから。ただ、それだけ」
それだけの、僕。
だけど、僕は変わったんだ。
──多分、三日月さんに出会ってから。
自分の殻に閉じこもったままだけじゃ、嫌だと思ったんだ。
もっといろんな景色を見てみたいと思った。
自分に素直になりたいと思った。
だから僕は、自分の殻を破ることに決めたんだ。
「ふーん」興味なさげに返事をする藍原だけど、さっきより感情が落ち着いているように見えた。
僕も、さすがにこれ以上は面倒くさくなって、さっきのことだけど、そう前置きをしてから、
「三日月さんに言わなければいいんでしょ」
「え? …ああ、うん」
「それと、返却予定日は二十五日だからそれまでに僕に返してね」
「…おお」
文庫本を机の中から取り出すと、藍原に向けると、静かに受け取った。
呆気なく会話が終わったから消化不良の藍原は、困惑したまま、じゃあな、と気まずそうに去って行く。
けれど僕は、なぜか清々しかった。
今まで溜め込んでいた感情を表に吐き出すことができたからかもしれない。
そんな僕を励ますように、窓の外に広がっていた景色は、晴天で、キラリと光る太陽が僕を照らしてくれているようだった。