さすがに人の気持ちを僕が勝手に教えるわけにはいかなくて、


「…とにかく頼むよ」


顔を逸らして、そう告げると。


「もうっ、分かったわよ。廊下で見かけても無視すればいいんでしょ!」

と、投げやりに承諾する。


「……うん」


──ずきっ

……は? 今のなんだ?

何に傷ついたんだよ、僕。


めんどうなことに巻き込まれたくないから仕方ないだろ。

だから、これでいいんだよ。


ていうか、一緒に帰ってる時点でまずいけれど、今日はあいにくの雨で傘をさしている。

だから、顔が見えない分まだマシだ。

それに藍原はバスケ部に所属しているから、放課後見られることはない。


「──あっ、雨上がってる」


おもむろに傘を下げた彼女が声を弾ませる。


「……ほんとだ」

「全然気づかなかったね!」


さっきまで不満そうな顔色を浮かべていたのに、すぐに切り替わっている表情。

僕みたいに引きずったりしてない。


記憶が、どんどん上書きされていくみたいに、三秒もすれば、あっという間に時間を刻む。

そんなふうにいつか三日月さんは、僕のことを忘れていくのかもしれない。


「雨降ってないのに傘さしてた私たち、なんか恥ずかしいね」

「まあでも、見られてなかっただけマシだよ」