「……なんだよ、茅影」
「え? あ、ううん、なんでもない」
僕に向けた視線はすごく鋭くて、背筋が凍りそうだった。
「じ、じゃあ僕もう行くから」
これ以上ここにいたら藍原の怒りが爆発しそうだ。
早歩きで、その場を離れようとすると、ちょっと待って、と声をかけられる。
「茅影くん、それ忘れないでね!」
「…わ、分かった」
後ろを振り向くことができずに、声だけで返事をした。
だって、今も睨んでるような視線を感じたから。
──そんなに睨むなよ。声をかけてきたのはそっちだろ。僕は、被害者だ。
そう声をあげたかったけれど、今の藍原に何を言っても無駄だと思って、のどの奥に押し込んだ。