「私も気になってたんだ、その本! でも、結構あちこち売り切れてるから読めてないんだけど、それ、学校にも置いてあったんだ?」

「あー…うん。最近になって文庫本も置くようになったらしい、けど…」


藍原そっちのけで三日月さんは、僕の文庫本に興味津々。

そのせいで、さっきからやけに鋭い視線が突き刺さる。

これは僕のせいじゃない、それなのに、この場の空気に板挟みにされる。


「じゃあさ、それ次読んだら私に貸して!」

「え? …あー、うん」


意識は別のものへ気にかけていたせいで、心ここに在らずな声で返事をする。


三日月さんは全然気づいてないようだけど、僕、怖いやつに睨まれてるから。

そうとは言えずに、必死に笑顔を浮かべる僕。


「そんなにおもしろいの?」


突然、話題に入ってくる藍原に、


「おもしろいよ! すっごく感動するんだよ」


やけに食い入るようにおもしろさをアピールする。


「そんなに感動するの?」


押され気味の藍原に、うん そうだよ、と身振り手振りを交えながら、


「だからね、文庫本をバカにしたらいけないんだよ」


ニコリと笑って告げるけれど、彼女の瞳の奥には、燃えるような何かを感じた。


その傍らで、さっきの僕への威勢を無くしている藍原が視界に映って、思わず、ふっ、と笑ってしまった。

だって、なんか弱々しかったから。