三日月さんは、扉を跨いで屋上へと踏み込んだ。


「ちょ、…本気なの?」


けれど、僕は、まだそこを跨ぐことができなくて、僕と三日月さんの間にある扉が大きな境界線に見える。

そんな僕を見つめて、本気だよ、と声を落としたあと、


「向葵くんもそんなところに立ち止まってないで早く来たら?」

「だ、だけど…」

「それに扉開いたままだと、ここに誰かがいるってすぐに気づかれちゃうよ」


判断できない僕に追い討ちをかけるように告げられた言葉に怖気付いて、致し方なく僕も足を踏み入れた。


瞬間、チャイムが鳴って、


「これで授業サボった共犯だね!」


なんて言ってクスッと笑ったあと、


「もし見つかったとしたら一緒に怒られようね」

「……やだよ」


一も二も切り捨てて、突き放す。

授業サボった共犯になんて、されたくない。

第一僕はここに呼び出されただけだ。自分の意思で授業をサボろうと思ったわけじゃない。


それに、三日月さんと僕は違う。

三日月さんは、授業をサボったり屋上に行ったり、そんなの当たり前かもしれないけど、僕は違う。

授業なんて一度もサボったことなければ、学校だって休んだことがない。

だから当然、僕がいなければ先生たちだって怪しむだろう。


「んー、風が気持ちいいねぇ」


そんな僕の心なんて知らずに、大きく両手を広げて、空を見上げる彼女。


「なんか不思議だよね」

「……なにが?」

「授業中なのに向葵くんと一緒にいるって。だってさ、体育以外ではほとんどないでしょ?」