しばらく固まっていたあと、べつに、と視線を逸らしたのは藍原の方で、
「じゃあ最後に聞くけどさ、お前、三日月さんのこと好きなのかよ」
「……は? え?」
「どーなんだよっ」
全く状況について行けない。
どうしたらそんな話に逸れるんだよ。ていうか、一緒にいただけで好きって聞かれるとか、どういうことだよ。
みんな頭の中、色恋的な感情ばっかだな。
僕が、三日月さんを好き?
……笑わせてくれるな。
だって僕は、
「……全然、好きじゃない」
あんな自己中っぽいタイプの人は特に苦手だ。
勝手にテリトリーを乱されるみたいで、できることなら関わりたくなかったのに。
「ほんとに好きじゃないんだな?」
「…そう、言ってんじゃん」
誰かを好きとか、僕にはない感情だ。
今までも、そしてこれからも。
「…分かった」そう告げると、机から手を離して、
「ムキになって悪かったな」
「え?」
「…なんだよ」
藍原がいきなり謝るから、僕も、鳩に豆鉄砲食らった気分になった。
「あ、いや、なんでもない」
そう答えると、困惑したような気まずそうな表情を浮かべたまま髪をわしゃわしゃをかいたあと、じゃあな、と言って去って行った。
藍原が、謝った……。
その事実がいまだ信じられなくて、藍原の背中を目で追ってしまう。