「……全然理由になってないし」


なんだかそれがおかしくって、ふっ、と口元を緩めると、


「あっ、向葵くん笑った!」


そう言って、僕に向かって指をさす。


「……僕だって人間だから笑うときは笑うし」


ただ、普段は一人でおもしろいことなんか何一つないってだけで笑わないだけだ。


「笑顔すっごくいいと思う!」

「は? なに言って…」

「なんかね、笑うと目尻が柔らかくなって可愛い!」


僕は男なのに、女の子から“可愛い”と告げられて戸惑いしかなかくて、


「バカ、じゃないの!」


真っ直ぐ向いている指を、手のひらで押し下げて、彼女に背を向けた。

僕が、彼女の言葉一つで動揺するなんて、ほんと自分らしくない。


「それよりクローバー探すんじゃなかったの」


彼女に気づかれないように話を逸らすと「あ」と思い出したように声をもらして、


「ついうっかり」

と、言って笑った。


そのへんにかばんを置くと、


「私はあっちから探してみるから向葵くんは向こうから探してみて!」

「……分かった」


放課後の河川敷、まさか四つ葉のクローバーを探すはめになるなんて思ってもみなかった。