僕が、藍原を見てたのは、ただ視界の先にいたっていうだけであって、見てた、わけではない。
「気のせい、なんじゃない」
そもそも僕が藍原を気にする道理なんかない。
うーん、としばらく考え込んだあと、
「茅影がそういうならそーなのかもな!」
と、聞こえて心の中でホッとする。
その場を去ろうと数歩歩くけれど、ちょっと待って、と止められる。
「……まだ、何か?」
早く僕は一人になりたいのに。
「ちょっと話そうよ」
「な、なんで…」
僕は、話したくない。面倒なことに巻き込まれたくない。
「俺、茅影のこと何か勘違いしてる感じがしてさ」
「……え?」
僕のことを勘違い?
それに、と続けると、
「あいつがいない方が話しやすいだろうし今がチャンスかなと思って」
親指で後ろをさす小武が言うあいつとは、恐らく“藍原”のことで。
「……嫌だって言ったら」
「断られても追いかけるつもりだけど」
なんだそれ。初めから僕に拒否権なんかないじゃないか。
例えここから逃げたとしても、小武はしつこく付き纏ってくるだろう。
ていうか、それと同じこと三日月さんにも言われた……。