「えっと、なに……」

「なにって文庫本返したとこ」


いや、それは見れば分かるけど、そう思いながら文庫本と小武を交互に見つめると、


「藍原が暴走して悪いな」


ごめん、と片手を立てて謝った。


小武が悪いわけじゃないのに、他人のために謝れるなんて、心広すぎだろ……。


「つーか、お前も謝れって」

「はぁ? なんで」

「藍原が茅影にちょっかい出すからだろ」


まるで僕は、蚊帳の外。

見上げたまま、二人のやりとりを見つめる。


……ていうか、小武がこの場を収めるなんて意外だった。

だって小武とは、特別仲良いわけじゃなかったし、小武も“そっち側”の人間だと思っていたから。

けれど、僕の見立ては少しズレていたようで。


「おいっ」


ふいに、呼ばれるから、めんどくさい、そう思いながら意識を向けると、


「……さっきは悪かったな」


ボソッと、小さな声で告げた。


けれど、理不尽にキレられた僕の気は少し収まらなくて、意地悪をしたくなった。


「え?」


だから僕は、聞き返す。

すると、だらかぁ、と声を上げると、


「悪かったなって言ったんだよ!」


吐き捨てるように声を落としたあと、チッと舌打ちを鳴らして、僕の前から立ち去った。

その後ろ姿は、とても大きかったけれど、怖く見えなかった。