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教室は少し異様な空気で、その中に飛び込んだ僕も居心地が悪かった。

けれど自分の席に戻って、文庫本を広げる。


「おい」


けれど、文章を一行読んだところで声をかけられる。

しかも相手は、あの藍原だ。


「おい、聞いてんのか」


まるで人を見下したように、おい、で声をかけるなんて、ほんと最低なやつだ。


「……なに」

「さっきのあれどういうことだよ!」


“さっきのあれ”その一言で、何を問われたのか理解できたけれど。


「あれってなに?」


わざと気づかないフリをした。

すると、表情をより一層曇らせて「チッ」と舌打ちをする。


「三日月さんに呼び出されただろ! あれのことだよ!」


バンッと片手を机について、苛立ちを机にぶつけた。


どうして僕がキレられるのか分からない。

ほんっと、世界は理不尽だ。


「べつに何もないけど」

「ないって…じゃあ、何話したんだよ」


どうして僕が、そんなこと説明しなきゃならないんだ。

知りたいなら彼女に聞けばいいだろ。


「…べつになにも」


そう思って、また文庫本へと目を落とそうとしていると、


「なにもじゃなくて詳しく話せよ!」


そう告げて、文庫本を僕の手から取り上げる。