こうなることも予想していたかのような余裕な笑みに、ムッとしながらも僕は、


「一つだけ頼みがある」

「なに?」

「……用があるからって教室にまで来ないでほしい」


あくまでも僕は、自分の生活を守るために彼女の提案を受け入れることを決めたのだ。

それ以上でもそれ以下でもない。


「うん、分かった」


頷いたあと、でも、と言って一歩僕に近づく。


「用があるときにリアルタイムで繋がらないのは困るから、連絡先教えて?」


軽やかにスムーズに、いつのまにか出しているスマホを僕に向けた。


ほんと、何もかも対照的な僕たち。

僕は、一度だって自分から相手の連絡先を聞いたこともない。そして、聞かれたこともない。

だから戸惑って立ち止まっていると、おーい、と声をかけられる。


「向葵くん、聞いてた?」

「…っ、お、教えればいいんだろ!」


全部、彼女の言いなりになるのは癪に触る。

だから咄嗟に出てきた声は、少し苛立ちを含んでいた。


でも、スマホをポケットから取り出して思ったこと。


「……どうやって連絡先交換すんの?」


だった。

そんな僕の声に、え、と顔をあげて困惑した彼女。


「しょうがないだろ。僕、こんなことしたことないんだし……」