「名字ってどこか他人行儀じゃない?」
「……他人だろ」
実際に、友達でもなければ仲良いわけじゃない。
だから、名字で呼んでもらった方が心底いい。
──そう、思っていたのに、
「でも、名字で呼ばれるのほんとは嫌なんでしょ?」
僕の深く、深くにある核心をつく。
その言葉に動揺して、思わず彼女を見つめた。
「べつに嫌なわけ、ないだろ…」
生まれたときからずっとこの名字なんだから、嫌なわけ、ない。
それなのに、
「そんなの嘘」
僕の瞳を真っ直ぐ見据えて、そう告げた。
たったの五文字で僕の答えを否定する。
「影が薄いって噂されてる茅影くん。それって名字と掛け合わされてるからなんでしょ?」
まるで僕の過去でも見てきているかのようで、
「名字でからかわれて、それが嫌になって、だったら存在ごと影になればいい──、そう思ったんじゃないの?」
全部、僕の心を暴く。
最初から見抜いていたかのような、真っ直ぐな瞳。
だから僕は逸らすことができなくて、ぎゅっ、と拳を握りしめた。
「……だったらなんだよ」
今まで一度も知られたことない。気づかれたことない。
それなのにたった一度話しただけの転校生に全てを知られるはめになるなんて。
もう、いいや。
全部、ぶちまけてしまおう。