けれど、すぐに何事もなかったかのようにニコリと笑顔を浮かべて、

「ちょっと今、いいかな?」

廊下の向こうを指さした。


できることなら断りたい。そしてもう二度と来ないでくれと文句を言いたい。

だが、ここは教室で藍原の目もある。それにクラスメイトは興味津々に様子を伺っている。

こんな場所で文句でも言ってしまえば自殺行為だ。あとから僕に仕返しがくるに決まってる。


だから、仕方なく、

「……いいけど」

小さな声を落とすと、よかった、と言って、


「じゃあ、向こうで話そう」


そう告げると、廊下を歩き出す。


ここで話すよりは幾分もマシだ。自分にそう言い聞かせて重たい足取りで、彼女のあとを追いかけた。

背中には、いくつもの嫉妬という槍が突き刺さっているようだった。