ああほんと、面倒くさい。こんなことに関わりたくなかった。
ほんとは、僕はずっと一人でいたかったのに。
そうすれば面倒なことに巻き込まれないし、傷付かなくて済むからと自分を守ってきたのに。
「向葵くん、これからも私と一緒にいてくれるでしょ?」
なんてお願いをされてしまえば、断ることもできなくて。
「……仕方ない、なぁ……」
彼女に背を向けて、ポツリと呟いた。
ほんとは、嬉しかった。
ずっと三日月さんのそばにいられることが。
三日月さんの笑顔をこれからも見られることが。
けれど、素直になれない僕は、本音を飲み込んで裏腹なことを呟いた。
そしたら彼女は、また笑って。
「ほんっと、素直じゃないんだから」
「……うるさい」
三日月さんがやって来て、僕の人生は変わった。
こんなにもキラキラして、なんて青春らしいんだと思った。
僕が、恋をするなんて思わなかった。
だけど、恋をしてよかったと思った。
大切な人ができるだけで、僕は強くなれた気がしたから。
きみのためなら、どんなことでも頑張ろうと思えた。変われる気がした。
とりあえず、まずはこの状況から片付けるとして。
「藍原に三日月さんのこと彼女…ってちゃんと言うから」
背を向けたまま、小さな声でそう呟いた。
それを聞いてクスッと笑った三日月さん。
これは、僕の小さな勇気と一歩前に踏み出したたしかな証拠だったんだ──。
ー Fin ー