「──おいっ!」


ふいに、聞こえた声にピタリと伸ばしかけた手が止まり、声のする方へ二人して視線を向けると。

海岸沿いの堤防に見覚えのある姿が数人見えた。


「おまえっ、三日月さんに何やってるんだよ!」


僕たちへ指をさして怒りをあらわにしている相手は、藍原で。


「……うわ、最悪」


その瞬間、パッと手を下ろす僕。

よりによってなんで藍原にこの状況を目撃されるんだよ。

ああほんと、ついてない。


「おまえ、どういうことか説明してもらうからそこから動くんじゃねーぞ!!」


海岸に響き渡る藍原の声は、脅しとしか聞こえなくて。


「……どうすんの、これ」


思わずポツリと呟くと、クスッと笑い声がもれる。
すぐ目の前にいる彼女へと視線を移動させる。


「なに、笑ってんの」


この状況に余裕な三日月さんに少しムッとして尋ねると、だって、と言った彼女は、


「なんか青春っぽいなぁと思って」

「は?」


今のどこが青春なんだよ、と思って固まっていると、


「私、生きてられなかったらこんなふうに向葵くんと青春送ることできなかったからなんか楽しくって」


短く言葉を切ったあと、だから、と続けると、


「今がすごく幸せなんだ」


ぶつかった視線は、とても柔らかくて、つられて僕まで表情が緩む。


「おい、茅影おまえー…!!」


すぐそばまでやって来ている藍原の声にビクついて、せっかくの雰囲気はぶち壊し。