「もうあんなに怖い思いをするのはたくさんなんだ……」
これ以上力を込めたら細い身体は折れてしまいそうで、だけどそれくらい力を込めてもまだ全然足りなくて。
「だから」声をもらして、さらに抱きしめていた腕に力を込める。優しく、愛おしく包み込むように。
「僕のそばに、いてほしい」
「……うん」
三日月さんは、迷うような仕草で僕の背中に腕を回す。これでもかというほど、ゆっくりと僕の背中をぎゅっと抱きしめ返す。
「私も、向葵くんと離れたくない、な……」
目を閉じると、瞼の裏がじんわりと熱くなる。
このまま離したくなくて、彼女の背中に回している腕にさらに力を込める。
こんなに三日月さんのことを好きになってしまったなんて。ああほんとに、どうしよう。
離したくなくて、困った。
「向葵くん……」
か細い三日月さんの声がして、おもむろに顔を上げると、僕の方を真っ直ぐ見つめる彼女の瞳とぶつかった。
綺麗で、可愛くて、愛しい彼女。
「ご、ごめん」
思わず、抱きしめていた腕を緩めて、両手で肩を押し返す。
「向葵くん?」僕を見据えたまま少し戸惑った声色を落とす。
「……なんか恥ずかしく、なって……」
こんな真っ昼間、誰がどこで見ているかも分からないのに。