「え、なんで……」
知っているけれど、知らないフリをして尋ねた僕に、知らねぇよ、と冷たく言い捨てる。
よっぽど僕のことが気に食わないらしい。
けれど、僕からすればただのとばっちりだ。
何も答えない僕に、つーか、と頭を乱暴にかいて苛立っている藍原は、
「三日月さんが待ってるんだから早く行けよ」
さすがの僕も、これ以上ここの雰囲気に耐えられず、
「あー…うん」
文庫本を静かに閉じると、席から立ち上がって藍原の横を通った。
その瞬間、小さくチッと舌打ちが聞こえた。
僕が歩くと止まっていた空間は動き出し、クラスメイトは話の続きを喋りだす。
がやがやと、ざわざわと。
けれど、時折感じる視線は間違いなく確かにあって。僕の背中をグサリと突き刺す。
僕が一体何をしたと言うんだ。
僕が、会いに行ったわけじゃない。三日月さんが、僕の教室に勝手に来たんだ。
それなのにどうして僕が冷たくされなきゃならないんだ。
……ほんっと、理不尽すぎるでしょ。
これだから色恋的なものに巻き込まれたくないんだよ。
それもこれも全部、三日月さんが来たせいだ。
「…何か用ですか」
初対面のような対応を取る僕に、一瞬困惑した色を見せた彼女。