「……そういえばそんなこと言ったね」


全部、覚えてる。

あの日、彼女を抱きしめたのも僕。
話があるからと告げたのも僕。

そして、彼女を失いたくないと思ったのも僕。


「三日月さん、聞いて欲しいことがある」


握りしめていた手を一度ぎゅっと握りしめたあと、力を緩めて手を解くと、少しだけ驚いたように目を見開いたあと、口元を緩めて「うん」とゆっくりと頷いた。


ふわりと風が吹いて、潮の匂いが流れてくる。

海水が波打つ音が聞こえながら、空を飛ぶ鳥の鳴き声がこだまして。
陽の光が、海に反射してキラキラと輝いて見えて。
風が吹いて三日月さんの髪を攫ってゆく。

この広い海には、僕と三日月さんの二人しかいない。
誰も僕たちを邪魔する人はいない。

この空気も、そして視界も、すべて三日月さんでいっぱいになる。

張り詰めるような空気も、今はなぜか心地よく感じて。
思い切り、すう、と息を取り込んで。


「こんな僕が言うのはおかしいのは分かってるんだけど……でも、言わなきゃずっと後悔すると思うから……」


最初は三日月さんのこと苦手だった。
全部、一方的だし強引だし、人の話は聞かないし、しつこいし……

そんなきみのことを、ずっと僕は好きになれなかった。

できることなら、関わりたくなかった。