あー、もうっ。
「……どうでもいいだろ」
高鳴った鼓動を悟られないように、プイッと顔を逸らす。
どこまでもかっこ悪い僕は、素直になるどころか対象的な感情ばかりを彼女にぶつける。
……ほんと、情けない。
「もう〜、向葵くんってばほんっと意地っ張りなんだから」
クスッと笑った声がもれて、さらに恥ずかしくなった僕は、その手を振り解こうとしたけれど、それを知った彼女が僕の手を握りしめる。
どきっ──
思わず、鼓動が鳴る。
「それより」ふいに、ふわりと微笑んだ三日月さん。雪が溶けるように優しく、儚く口元が目元が緩む。
「手術が終わったら話があるって私に言ってくれたよね、向葵くん」
一瞬で空気が切り替わる。
あの日の僕と三日月さんの会話が手繰り寄せられる。
「あ、えっと……」
けれど、心の準備なんてまだ全然で。
この状況さえも飲み込めずにいた。
「私もう、十分待ったよ?」
さらに、ぎゅっと握りしめられて。
僕は、どきどきが止まらなかった。
確かに、僕は言った。
三日月さんに聞いて欲しいことがある、と。
三日月さんが病気で、人生の瀬戸際にいることを知った。
手術をすれば命は助かるけれど、思い出は全部消えてしまうと。
泣いていた三日月さんを、僕は守りたいと思った。
そこで、ようやく自分の胸の真ん中にある気持ちに気づくことができた。
それは、あの日確かに僕が三日月さんに伝えたかったことで。