「目を逸らすのが悪いんだよ」
歯を見せて楽しそうに笑う三日月さんは、最近まで入院していた人とは思えないほどの回復ぶりで。
僕は、たまらず嬉しくなる。
海水をかけられたのになに喜んでるんだって感じだけれど。
──パシャっ
「ちょ、かけすぎ…っ!」
また僕へと海水を飛ばす。何度もかけられたおかげで髪やシャツは水分を含んで少し重たくなっていた。
「だって向葵くんがぼーっとしてるんだもん。つまらないから、かけてあげようと思って」
「いや、つまらないってなに。そのおかげで僕こんなに濡れたんだけど」
顔に飛んでいた水滴を腕で拭うと、いーじゃんべつに、と口を尖らせたあと、
「どうせ、この暑さだしすぐ乾くって。大丈夫大丈夫」
なんて他人事のように返事をするから、さすがの僕も。
両手で海水をたっぷりと掬うと、勢いよく三日月さんに向かって解き放つ。
うわっ、声を上げながら両手でガードするけれど、シャツに命中してぐっしょりと濡れる。
「ちょっともうー、向葵くん。水たくさん飛ばしすぎ!」
ぶつくさと文句を言うけれど、その表情は楽しげで笑っていたから、謝罪をする必要はないと思って。
「さっきの三日月さんへの仕返しだよ」
「だからって向葵くんずるだよ!」
僕に向かって指をさす三日月さんは、頬を膨らませて抗議をしていて。
そんなの不公平だと思った僕は、なんで、と尋ねる。