「ちょ、…危ないから走らないで!」

「大丈夫大丈夫。ほら、早く」


止まる気配は見えなくて、僕の手を掴んだまま海岸へと近づいた。

潮風の匂いがする。陽差しが眩しくて、それを反射した水面はキラキラして見えた。波の音が全てのものをシャットアウトするかのように、全身で海を感じる。


「綺麗だね」

「…うん」


繋がれた手を、握り返す。

ちゃんと存在を確かめるように。
もう二度とあんな怖い思いはしないように。


「ねぇ、足だけなら浸かってもいいかな?」


ふいに、そんなことを尋ねられるから、え、と困惑していると、おもむろに手を離される。
何をするのかと見ていると、ローファーを脱いで靴下まで脱ぎだすから。
その先に何をするのか容易に理解できた。


「いや、さすがにそれはまずいんじゃ…」

「いいから、少しだけ!」


心配する僕をよそに、三日月さんは楽しそうに顔を緩ませて、波の方へ向かった。

え、ちょっと嘘だろ……?
手術が成功したからってそんなにはしゃいで、何かあったらどうするんだよっ。


「あー、もうっ…!」


彼女の後ろ姿を見つめたあと、仕方なしに声を張り上げた僕は、急いでローファーと靴下を脱ぐと、それを放り投げてあとを追いかけた。