「待っていてくれてありがとう」
声色が落ちて、僕の鎖骨あたりにコツッとぶつかったおでこ。
緊張とか意識とか、そんなものどこかへ吹っ飛んでいて。
それよりも今は、三日月さんのことだけを考えていた。
シャツがわずかに冷たく感じて。
もしかしたら泣いているのかもしれない、そう思うと僕まで感情が抑えられなくなって。
静かに涙を流す僕。
つらい手術に耐えて、生きてくれた。
思い出を忘れたくないからと、僕のことを忘れるのが怖いからと、自分が自分じゃなくなってしまうんじゃないかと恐れていた三日月さん。
けれど、奇跡的に僕のことを思い出してくれた。
もうそれだけで他には何もいらなかった。
しばらく二人で抱きしめあった。
会えなかった一ヶ月半月分を。
補うように、埋めるように。
そんな僕たちを、九月の空は祝福するかのように晴天だった──。