けれど、今なら分かる。
それはきっと、
「手術をして思い出が消えてしまう前に、自分が過ごした時間を残したかったんだと思うんだ」
かばんの中からスマホを取り出すと、素早く操作してSNSを開く。
そして画面を三日月さんへ向ける。
「これは……?」
困惑しながら僕からスマホを受け取ると、画面の中を覗いた。
「それ、三日月さんのSNSのアカウント。今まで僕と過ごした青春を切り取って思い出にするんだ、って言って写真に撮ってたんだ」
「私が……?」
「うん」
そこまで聞いても思い出せなくてピンときていないようだったけれど、三日月さんはスマホを見つめた。
前に一度だけSNSを見せてもらったことがある。
三日月さん曰く『SNSにアップしておくと、日付も表示されるし文章だって打てるから、いつ何があって、こういう思いをしたって「青春」を追いかけることができるでしょ?』と、言われたことがある。
そのときの僕は、よく分からなかった。
けれど、今なら僕にも分かるんだ。
だって、彼女が忘れてしまっても彼女のアカウントには、僕と過ごした時間が残っている。思い出が残っている。
失ったものはあっても、残っているものも確かにあって。
「いつも明るくて眩しくて、僕とは対象的なきみに困惑したんだ。けど、それと同時に羨ましくもあって」