「三日月さんの手術が終わったあとに、僕の気持ちぜんぶ言うから」
明日も生きたいと思えるように、その後の約束を僕としよう。
だから、
「それまで待っててほしい」
「でも、私……」
「うん」
彼女が何を言いたかったのか手にとるように分かって、考えるよりも先に言葉が出ていた僕は頷いて。
三日月さんが僕のことを忘れてしまったとしても、
「そのときは、僕が覚えてるから大丈夫だよ」
それに、100パーセント忘れてしまうとは限らない。
99パーセントのうちの、残りの1パーセントでもいい。
僕はそれに賭けたいと、思うんだ。
「私…」
ふいに、ポツリと僕の声に同調するように声を落とした三日月さんは、僕のシャツをぎゅっと握りしめて。
「向葵くんのこと、忘れたくない、なぁ……」
くぐもった声で、弱々しく呟いた。切なそうに、堪えながら。
いつも明るくて太陽のようだった三日月さんが、僕の腕の中で小さくなっている。
少しだけ震えながら、声を殺しているようで。
「……うん、そうだね」
僕も言いながら、彼女を強く抱きしめた。
夕焼けのオレンジ色が、病室の窓から入り込む。
三日月さんは、僕の腕の中で声を殺しながら泣いた。
決して、僕のシャツを離そうとはしなくて。
時折、震える肩を見ながら僕もまた、切ない思いに駆られる。
けれど、いつの日かまた笑い合える日が来ると信じて、僕は彼女を強く強く、抱きしめた。