焦った僕は、慌ててフイッと視線を逸らす。
「用って誰に? もしかして俺とか?」
なーんて、と自虐ツッコミをしながら尋ねる藍原の声に、「えーっと……」返答に困った声色を落とす三日月さん。
僕は、べつに関係ない。
だって友達でも何でもないのだから。
「誰に用? 俺、呼ぼうか?」
話を切り替えると、じゃあ、と声を落としたあと、
「茅影くんを」
間違いなく、そう告げた。
僕は、その声を聞き逃さなかった。
「えっ? ち、茅影……?」
困惑したような驚いたような声を落とした藍原と、それ以外にも聞こえた声は、ありえない、とでも言いたげな声色で。
けれど、一番驚いているのは、この僕だ。
クラスメイトでもなければ友達でもない。ただ、一度だけ話したことがある顔見知り程度の僕に。何の用があって来たのか、頭を巡らせてもさっぱり分からない。
「うん、呼んでもらってもいい?」
「え…っと、ほんとに茅影? 誰かの名前と間違ってない?」
困惑したようにまくし立てる藍原に、ほんとだよ、と肯定したあと、
「だから、茅影くん呼んでもらえるかな?」
再度、僕の名前を口にしたのだ。
瞬間、ざわつき始める教室と、僕に鋭く突き刺さる視線。
「……マジかよー。なんであいつが?」
どこからともなくコソッと聞こえた僕を見下すような声。