「そしたら私は、一体どうなっちゃうんだろうって、自分は自分のままいられるのかな。ぜんぶ忘れて、消えてなくなっちゃうんだと思うと、どうしようもなく怖いの……」
ずっと笑顔だった三日月さんが、僕の前で泣いたのは初めてだった。
「……私、最後は自分のことも忘れちゃうのかな」
弱々しく紡がれた言葉に僕はたまらず立ち上がって、
「──そんなことない!」
彼女の両肩に手をついた。
驚いた彼女は、涙を流しながら僕を見つめる。
「三日月さんは三日月さんだ。自分のことを忘れるはずなんか、ないだろっ。それに、手術をしたら絶対に記憶を忘れるとは限らないだろ!」
この場の雰囲気に流される。
僕は今、何を言ってるんだろう。何のために怒ってるんだろう。こんなに声を荒げて、らしくない。
「難しい手術なのか僕は分からないけど……」
正直、頭の中に腫瘍があると言われても、その手術がどれだけ難しいものなのか僕には検討もつかない。
けれど、これだけは分かる。
「手術をしたら命は助かるんだ。これからも生きられる。三日月さんが思い描いた青春を送ることだってできるんだから!」
感情を抑えることができずに、荒げた声とともに手のひらに力が入る。
「でも、向葵くんのこと忘れちゃったら……」