「そんなの向葵くんのせいじゃないよ」
「でもっ」
「──私が」矢継ぎ早に現れた言葉によって僕の言葉は遮られ、のどの奥へと追いやられる。
「……私が、言いたくなかったの」
「え?」
「病気のこと言ってしまったら向葵くんは、一緒に過ごしてくれないかもしれないって思ったから」
「それは──…」
当たり前だと、言おうと思った。
だって、病人は大人しくしていなきゃいけないと思ったから。何かあったら大変だから。
でも、言えなかった。
彼女の顔が、あまりにも苦しそうに泣きそうに歪んでいたから。
「だから、言いたくなかったし言えなかった」
弱々しい声は、今にも消えてしまいそうで、僕は何も言い返すことができなかった。
「ほんとはね、もっともっと向葵くんと一緒にたくさんやりたいことあったの」
泣きそうな顔で、無理やり笑顔を浮かべて。
「もうすぐやってくる夏休みの花火大会にだって行きたかったし、放課後制服のまま海行って裸足になって足まで浸かって水かけしたり、そんな青春を送りたかったの」
まだ見ぬ未来に夢を馳せている彼女の笑顔は、痛々しいほどで。
「でもね…」言いかけた彼女は、口をつぐんで今にも泣きそうなほど目にいっぱい涙を浮かべて。
「……手術したら向葵くんのことも忘れてしまう。今までの思い出もぜんぶ……」
そう言葉を紡いだ瞬間、ポタッと頬を伝って流れる涙。