だって、僕と出会ったからって三日月さんの考えが変わるほど僕に力はない。


「なんで僕なの……?」

「最初にも言ったけど、向葵くんが中庭のベンチで本を広げたまま気持ちよさそうに眠ってた姿を見かけたの」


そういえば、そんなことを言っていたなぁと、記憶が手繰り寄せられる。


けれど、“死にたい”から“生きたい”に変わるような理由に繋がっているとは到底思えなくて。

そんな僕を見つめたまま「でね」と、話を続けると、


「風にふわりと揺れる髪の毛とか、眠る姿とか本がめくれる音とか鳥のさえずりとかその場の空気とか。なんかね、全部が陽だまりのように温かいなぁって思ったの」

と、楽しそうに声色を弾ませた。


なんだそれ。

僕とは対象的なイメージに困惑する。

だって、


「……僕が、陽だまり?」


そんなの絶対にありえないのに、うん、と彼女は首を縦に振って口元を緩めて。


「嫌なことぜんぶ忘れさせてくれるような陽だまりのようで、この人と過ごしてみたら病気のことも、もしかしたら前向きに考えられるんじゃないかなって思ったの」


あのとき彼女が、そんなふうに思って話しかけたなんて、あのときの僕は考えもしなかった。


「向葵くんと一緒に過ごしてるときは、ほんとに楽しかった。病気のことなんて忘れて、青春を謳歌してる感じがしたから」