「やっぱり、向葵くんは向葵くんだね」


そんな僕を見て、彼女はそう紡いだ。

困惑した僕は、え、と声をもらしながら顔をあげる。

そしたら「ようやく目が合った」と笑って、


「向葵くん、何か言いにくいことがあるとすぐ目を逸らして誤魔化すんだもん。すぐ分かる」


僕を見て微笑んだ彼女は、少しだけ痩せたように見えた。

どうしたの? 何があったの? 聞きたいことはたくさんあった。
でも、のどの奥に詰まったまま声が出なかった。


「この前は、あんな態度取ってごめんね」


僕の代わりに先に封を切ったのは、三日月さんの方だった。


「どうしても向葵くんには知られたくなくて」


眉尻を下げて悲しそうに笑う彼女は、いつもより弱々しく感じる。


ついこの間まで制服を着て、楽しそうにはしゃいでいたのに、今は病院服で。

「私ね」言いかけた彼女は、一瞬言葉を詰まらせたあと、ふう、と息を整えて。


「病気なんだ」


その言葉が、僕に重たくのしかかる。


「病気……?」

「うん。頭の中に腫瘍があるの。それを取り除かないと命に関わるんだって」


“命に関わる”と言うわりには、淡々と言葉を告げていて、


「腫瘍の近くに神経がたくさんあってとても難しい手術なの。だからね、手術をしたら記憶を忘れてしまうかもしれないんだって。ぜんぶ」


まるで他人事のように、言葉を紡いだ。