学校が終わって僕は病院へと向かった。

エレベーターで五階まで行って、三〇九号室を探しながら長い廊下を歩いた。


【 三〇九号室 三日月 ひまり】

視界に入ったその名前を見て、ピタリと足が止まる。

この奥に三日月さんが……


コンコンッ、二度ノックをすると「はい、どうぞ」聞き覚えのある声が聞こえた。
すーはー、と息を整えてから僕は、ドアに手をかけた。


すぐに三日月さんの姿が見えて、小さくホッとしていると、


「呼びつけちゃってごめんね」


しおらしい態度で違和感すら覚えた僕は「あ、いや」と目を逸らす。

心なしか、少し元気がない。


締め切ったドアの前で立ち尽くしていると、こっち、と言ってベッドの脇に置いてある椅子に指をさす。

言われるがまま僕は、足を進めて静かにそこへ腰掛けた。


何を話せばいいのかな。僕はそんなことを考えて、しばらく口を閉ざしていた。

そんな空気を気遣ってか、小さく、クスッと笑って。


「向葵くん、元気にしてた?」

「……あ、う、うん」


目線を下げたまま返事をすると、そっかよかった、と声が落ちてくる。

「三日月さん…」逆に尋ねようと思った。けれど、今の状況を見てハッとして口をつぐむ。

元気なら、入院してるはずがないと思ったからだ。


「ごめん、何でも、ない」


手ぶらで来てしまった僕は、少し場違いだ。

花とか、果物とか持って来ればよかった。