けれど、愚痴を吐く相手もいなければ親しくしている友達だっていない。
だから我慢するしかないんだ。
それを自分に言い聞かせるように、おもむろにかばんの中から飴玉を一つ取り出すと、それを口に放り込んだ。
しゅわしゅわっと弾ける小さな刺激のあと、ソーダの味が口いっぱいに広がった。
「あれっ、どうしてここに?」
ふいに、聞こえた声。それは、驚いたような男子の声で。
廊下がやたらと騒がしくなる。
また、僕の読書の時間を邪魔するのか。
……ガリッと飴玉を噛んだ。それは、砕けて、溶けて小さくなる。
「ちょっと用があったの」
受話器越しに電話で話しているようにノイズがかかっているようだったけれど、聞き覚えのある声。
それは、少しずつ近づいて大きくなる。
……もしかして? いや、まさか。
そんな感情が錯綜する。
「えっ! 三日月さん?!」
その瞬間、クラスメイトの男子が一斉に立ち上がりドアの方へ視線を向ける。
つられるように僕も視線を向ければ、バチッと視線がぶつかった。
わずかに微笑んだ、気がした。
「どうしたの!?」
「うん。あのね、ちょっと用があって」
まるで僕を見て告げたように聞こえて、嫌な汗が流れる。