あのときの僕は、そのあとに『それ聞いてると、まるで三日月さんがいなくなる前提みたいに聞こえる』そう答えた。
そして、三日月さんは少しだけ黙った。
「もし何か隠してるようなら…」
「──何もない!」
僕の言葉を遮った、大きな声。びっくりして言葉に詰まらせていると、
「ほんとに何もないの」
俯いて、顔がよく見えなかった。
泣いているのか、怒っているのか、それすらも分からない。
「ただの、風邪。なかなか治らなくて病院に行っただけなの、ほんとに」
ポツリポツリと紡がれる言葉は、思っていたよりも冷静で、冷たくて。
「私、まだ風邪治ってないから、もう行くね」
僕の目を見ないまま、横を通り過ぎる。
「待って!」
咄嗟に掴んだ手は、思っていたよりも冷たい。
外はこんなに暑いのに。
「ごめん、離して」
僕を拒絶しているような声色が落ちる。
でも、今離してしまったら二度と後悔するような気がして。
「嫌だ」
「お願い、向葵くん」
僕は、ぎゅっと力を込めた。