「三日月さんっ……!」


緩やかな上り坂を全良疾走して、目の前の女の子に声をかける。

僕の声にピタリと立ち止まるのを確認して、ホッと安堵した僕は、はあはあ、と膝に手をついて息を整えた。


「……向葵…くん?」


おそるおそる僕の名前を呼ぶ声に、聞き覚えがあった。

やっぱり、見間違いじゃなかった。


「三日月さん」


肩で息をしながら顔を上げると「なんで」僕の顔を見て困惑する。


「どうしてここに?」

「あ、えと、それは……」


焦点が定まらない瞳と、歯切れの悪い声。

いつもならそんなことありえないのに、今日の三日月さんは何かを隠しているようでならない。

ただの風邪で休んでいるなら、素直にそう言えばいいのに。どうして言葉を詰まらせるんだろう。
やましいことがあるから、そうとしか考えられなかった。


「もしかしてそれ、薬?」


左手に下げている小さな袋を、僕が尋ねると「う、うん」とぎこちなく答えたあと、ササッと後ろへ隠す。

僕に見られたらまずいものなのだろうか。

僕は、何も聞かない方がいいのだろうか。


今までの僕なら、それ以上相手に踏み込んだりしなかっただろう。

けれど、三日月さんは堂々と土足で僕の心に踏み込んできた。おかまいなしに。

だったら、


「ねぇ、三日月さん。僕に何か隠してることない?」


僕も、踏み込ませてもらうよ。

きみが、僕にしてみせたように。