今じゃ、すっかり丈夫になって風邪もあまりひかなくなった。

かといって体力があるわけじゃない。どちらかといえば、僕は非力な方だ。それには自信をもって言える。


信号がまだかとチラッと確認するけれど、まだみたいだ。

僕は、またのどが乾いて袋の中から飲みかけの飲料水を手に取った。

ふいに、視界の端にチラッと見えた黒髪の女の子。


「……三日月さん?」


いや。そんなわけ、ないよな。

だって、


「……だって、何だ?」


この場にいてもおかしくないよな。

なんていったって病人だったんだし。風邪の。


いやでも。


「見間違いかもしれないし……」


“──だからね、限りある命の中で私は一生懸命自分が生きた証を残したいの。こんなに楽しい人生だったんだよって、みんなに残したいの”


僕の頭の中に、一週間前の記憶が手繰り寄せられる。


その瞬間、嫌な動悸が、僕を襲う。

何をそんなに怖がっているんだ?

僕は、何が怖い?


「……三日月さんが何かの病気?」


今までの記憶を辿っても、思い当たるフシはいくつかある。

何で、青春の写真を残したいのか。拒む僕を必死に説得させたのか、四つ葉のクローバーを探すことに必死になったのか。
もしもそれが、終わりある命だからこそ、だとすれば全部辻褄が合う。


だったら──…

信号が青に変わっていたことなど気にせずに、僕は、病院の方へと走った。