クラスメイトは会話に花を咲かせたり、トランプをしたりと学校生活を謳歌しているようで。

その教室の傍らで、いつものように自分の席で文庫本を読む僕。

周りの会話が嫌でも耳に入ってくる。


「なぁ聞いたか? 櫛谷、この前三日月さんに告ったらしいぞ」

「マジで? で、結果は?」

「あー、なんか今は誰とも付き合う気はないって言われたんだって」


あのとき僕もその場にいたから、とうの昔に知っている。

櫛谷の前ではおとなしそうな態度をとっていたのに、僕の前では強気な態度。

まるで僕を下にでも見ているようで、無性に腹が立ったのを覚えている。


「マジかぁ……俺、本気で好きだったのになー」

「お前、入れ込みすぎだろ」

「だってよー、あんな可愛い子が転校生として来たら誰だって好きになるだろ?!」


“転校生”と“可愛い”。この二つのワードだけが一人歩きしているみたいだけれど、実際の彼女は猫をかぶっているのかもしれない。

それとも、おとなしいフリをしていた方がモテると理解しているのかもしれない。


「だけどさぁ、あの子はお前には無理だろ。なんていったって可愛いし!」

「うっせぇなー」


一箇所に集まって男子だけで色恋的な会話を繰り広げる。

そんな光景を横目に見て、なんて滑稽なんだと心で笑う。