「大丈夫だよ。だって公園の隣にはマンションもあって人通りもあるし、向いの方にはカフェだってあるし」

「そういう問題じゃない」


もし僕が来るまでの間に何かあったら危険な目に遭うのは三日月さんなのに。当の本人はケロッとしてるし。

てっぺんまで登りつめた僕を見て、まあまあ、となだめるように。


「とにかく何もなかったんだからOKってことでいいじゃん」


歯を見せて笑う彼女は、ほんと楽観的すぎる。

前から薄々感じてはいたけれど、こうも危機感がないと心配になる。
そのくせ私情が挟むと、強引になるし。


三日月さんの隣でそんなことを考えていることなどつゆ知らず「はい」僕に向かって、缶ジュースを手渡した。

彼女のそばには袋がぶら下がっていた。


「なに?」

「外暑いでしょ? だから冷たいもの欲しくなるかと思って来る途中に買っておいたの」

「あ、ああ…」


そういや外暑くて汗かいた。これじゃあ風呂に入った意味なんかないな。


「お金…は、今手持ちにないし月曜返す」


スマホ片手に家を出た僕は、ジュース代さえも払うことができなくて。
そんな僕に、いーよー、と手を振ったあと、


「どうせ百円ぽっちだからあげる」

「いや、でも」

「今まで私、迷惑かけてるし。そのお礼ってことで受け取ってよ。ね?」


僕が付け入る隙は一切与えてくれず、うん、と頷くほかなかった。