腕組みをしながら天井を見上げた藍原は、しばらく考え込んだあと、僕の方を向いて、
「好きな子とは一緒にいたいって思うし、二人きりでいたら緊張するし、でもすっげぇ幸せなわけよ。だから、そばにいてどきどきする相手が好きな子ってこと!」
予想していた以上に真剣に答えられるから、こっちが照れくさくなって、ふーん、と答えると、愛想ねぇなぁ、と文句を言いながらも笑った。
「まあ、茅影もそのうち好きって気持ちが分かるんじゃないの」
小武がフォローするから、
「……それ以前の問題だけどね」
なんせ僕は、人を好きになったことがないから、好きな子を見分けられる自信だってない。
そのままスルーしてしまう気がする。
そしたら、「確かに」そう言って笑われた。
「ま、俺の三日月さんへの想いは誰にも負けねぇけどな?」
自慢げにそんな恥ずかしいことをサラッと告げる藍原にさすがに引いて鳥肌が立つ。
「おいっ、二人ともなんか言えよ!」
黙る僕たちに、指をさしながらぷりぷり不満をもらす藍原を僕は無視して、文庫本を開いた。
綺麗に並んでいる文字を読み始めるけれど、思ったほど頭の中に内容が入ってこなくて。
代わりに、さっき話していた恋愛だのタイプだのという、僕にとってはくだらない話題だけが嫌に頭の中にこびりついていた。