「は? な、なん…」
なんで、と告げる前に、だって、と被さってきた言葉のあとに、
「この前、保健室でそう言ってくれてたじゃん」
「言った覚えは、ない……あっ」
否定したあと、頭の中に記憶が手繰り寄せられて、あのときのことを思い出す。
確かに僕は、三日月さんから言われたことに頷いていた。
そんな僕にとどめを刺すかのように「ほら、ね」と見上げたまま首を傾げて、ニコッと微笑んだ。
彼女には、全てお見通しかのように思えて途端に恥ずかしくなる。
「べ、べつに、楽しいって言ったわけじゃ、ないし…」
「もう〜。向葵くんってば往生際が悪いなあ。私、確かにこの耳でちゃーんと聞いたよ?」
自分の耳をトントンッと二度叩いたあと、それとも、と呟いて、
「証拠の録音でも聴かせようか?」
「……はっ?! 録音してたの!?」
「いや、それはしてないけど」
楽しそうにケラケラ笑うから、「なんだよそれっ」不貞腐れた僕は、プイッと顔を逸らした。
ほんっと、卑怯だ。
僕ばっかりがペースを乱されて、いつも三日月さんにからかわれる。
そしていつもの通り、僕の顔は熱く火照る。