「知りたいって言ったら?」
それなのに彼女から紡がれた言葉に驚いて、「──は?」と声がもれる。
今、なんて言った?
一瞬、言葉が頭から抜け落ちる。
そんな僕に言葉をたたみ掛けるように、嘘じゃないよ、そう告げたあと、
「向葵くんのこと知りたいって思ったの」
まるで男が女を落とすための台詞のようなものを恥ずかしげもなく僕に向かって言った。
そんなことを言ってくれる人は初めてだった。
と、同時に、苛立ちが立ち込める。
だから僕は、
「さっきの櫛谷と友達ごっこでもすればいいじゃん」
わざと嫌味っぽく告げると、そういうことじゃないの、と眉尻を下げて笑ったあと、
「盗み見聞きしてたなら分かると思うけど、私、今は誰とも付き合うつもりないの」
「……へぇ」
「でもね、青春はしてみたいの。高校生の今だからこそできる青春」
俺の瞳を見据えたまま、どこか遠くを眺めているように、
「帰り道どこかに寄り道したりアイスを半分こしたり、屋上で大の字になって寝転んだりしてみたいの」
「そんなこと……」
きみなら簡単だろ、と口に出かかった。
けれど、無理やりのどの奥に押し込んだ。
なぜならば、彼女の表情が少しだけ傾いているような気がしたから。
ふいに、ふわりと微笑んだあと、だからね、と続けると、
「私はそれを向葵くんと一緒にしてみたいなと思ったの」