何が、そんなに大切なのか検討もつかなくて、へえ、と適当に相槌を打った。


「この栞にはね、たくさん思い出がつまってるから」


彼女は、栞に目線を下げて口元を緩めた。


「思い出?」

「そう。暑い中、向葵くんと放課後に二人して探したでしょ? だから私にとってすごく大切なものなの」


それを聞いた僕は、少し嬉しくって胸が熱くなった。

なんだよこれ。

こんなの僕の気持ちじゃない。


「ほかにもたくさんあるんだよ、向葵くんとの思い出。一緒にアイス食べたり授業サボって屋上で大の字で寝転がったり、雨上がりの虹を一緒に見たり、それから」


まだまだ続きそうだった言葉を「ストップ!」と遮ると、え、と不満そうに僕を見上げる。

大きな瞳の中に僕でも映っていそうで、それだけでどきっと緊張が走る。


「どうして止めるの? せっかくいいところだったのにー」

「だ、だってそれ、全部三日月さんが無理やり付き合わせたことでしょ」


そうだ。僕は、彼女の脅しに仕方なく従っているだけであって、決して自ら進んで志願したわけじゃはい。


「そりゃあね、始まりはそうだったかもしれないけど、今向葵くんも少しは楽しいって思ってるんでしょ?」