「そうなんだけどね、私がここにいたら向葵くん、どんな反応するのか気になっちゃって」


つまりそれは、僕を驚かせたかった、ってことになるけれど。


「だから帰ったように見せかけるメッセージ送って、ここで待ってたの。そうしたら眠くなっちゃって…」


事の事実を知ったとき、言い返すのもバカらしくなって口を閉ざす。


「で、驚いた?」

「……そんなわけないじゃん」


困惑はしたけれど驚きはしなかった。

帰ったとばかり思っていた三日月さんがここにいたから、僕がメッセージを送り間違えたのかと思ったから。


そんな僕に、ちぇー、と唇を尖らせたあと、


「あーあ。向葵くん驚かすの失敗しちゃったなぁ」


子どものようにふてくされる三日月さん。


さっきまで寝ていた彼女は、少し幼さが残って可愛らしかったのに……


……可愛らしかった?

いやいや、僕は何を考えてるんだよ。


「向葵くん、どうかした?」

「え? あ、いやっ、なにも!」


自分の感情に困惑するなんて、初めてだった。

だから、思わず数歩後ずさった。


三日月さんのことを可愛いだと……?

それじゃあ、まるで藍原みたいじゃん。


……違う違う。

僕は、人を好きになるはずがない。

色恋的なものに興味なんかない。

ただひっそりと教室の隅っこで自分の世界を守れたら、それでいい。