「な、なんだよ……」


尻込みしながら尋ねると、んーん、と首を振って、


「ただ、噂とは全然違うなぁと思って!」

「……噂?」

「うん。なんかね、茅影くんは“影が薄くて目立たない”って聞いたの。だからどんな人なのか気になっちゃって、つい…」


つい、の先に続く言葉は容易に理解できた。

結局は、僕が影が薄くて目立たない、そんな噂を確かめたかったのだろう。

だから、“つい話しかけた”んだろうな。


つまり、さっき言った運命ってやつは真っ赤な嘘なんだ。

ていうか、本人にそれ言っちゃうってどういうつもりだよ。


「でもね、噂なんて嘘っぱちだね!」

「……なんで。全部、ほんとじゃん」


現に影薄いし暗くて目立たないし、そう心の中で自虐めいていると、


「実際の向葵くんは、全然暗くなんてないし、話せば話し返してくれる。それに意外と口が悪い!」

「…は? いや、べつに口悪くないし」

「だったら自分で気づいてないだけとか」


僕が口悪いって? ……そんなはずはない。

ていうか、


「名前で呼ぶのやめてって言ってるじゃん」

「だからもう観念してよー」


観念なんてしてたまるかっ。

僕のことを三日月さんが“向葵”って呼んでるのを聞かれてしまったら、変な噂がたつに決まってるだろ。