小さく毒吐く僕は、どうやらまだまだ子どものようで。
大人なら、もっと落ち着いた態度をすればこんなふうにからかわれずに済むのに。
「ほら、早く景色見よう?」
僕に向かって微笑んだ彼女に、うん、と頷いた。
「ここ、すっごく綺麗だね」
「…ああ、うん」
何年ぶりかに来た展望台は、確かに見晴らしがよくて綺麗だった。
デッキに足を乗せて、かかとを上げて、流れてくる少し生温い風を感じながら、
「まるで物語の世界の中に自分も入り込んだみたいな気分になる」
と、言って目を細めた。
「物語の世界?」
彼女の斜め後ろで声をかけると、うん、と頷いて、
「私あの文庫本好きなの。世界観とかストーリーとか特に気に入ってて、ここに来たらほんとに物語の世界に入り込んだのかなって錯覚しちゃう」
僕なんかより物語にのめり込んでいるように見えた。
「だからね、今すっごく嬉しいんだ」
「物語の題材となったから?」
それもあるけれど、と言って僕の方へくるりと顔だけを向けると、
「久しぶりにこんな綺麗な景色見れたから」
と、嬉しそうに笑った。