あの場所から見える景色が僕は好きで、何度も親にせがんだ。
たくさんの建物と、たくさんの自然と、遠い遠い向こうの彼方に広い海が広がって見える。
夜になると、ネオンの光がキラキラと輝いて、花火大会になると絶景ポイントだとこぞって人が集まった。
そんな思い出の場所を僕は、いつから忘れてしまっていたんだろう。
「……知ってる」
「え」
「今、思い出した。三日月さんが文庫本のこと言ってくれたから」
ついでに昔の記憶も。
懐かしくて、楽しくて、家族で行くあの雰囲気が僕は好きだった。
だから、
「……今から行ってみる?」
立ち止まって僕は、三日月さんを見つめた。
そしたら三日月さんも僕を真っ直ぐ見つめた。
そして、
「行ってみたい」
告げたあと、唇が弧を描いた。
つられて僕も、笑った。